「入れ歯が割れた」「欠けた」「急に外れた」
──そんなとき、まず気になるのは「すぐに直せるのか?」ということではないでしょうか。
急なトラブルでも対応できる歯科医院は限られており、医院選びや相談の仕方によって対応スピードは大きく変わります。
本記事では、入れ歯修理の即日対応が可能なケースや、事前に知っておくべきポイントについて、歯科医師の立場から詳しく解説します。
1.入れ歯が壊れた!すぐに修理できるの?
入れ歯が突然壊れたとき、多くの方が「今日中に直せるのか」「どこへ持ち込めばよいのか」と不安を感じます。実際に、修理の可否や対応のスピードは、破損の程度や医院の設備体制によって大きく異なります。
よくあるトラブルとその場の応急対応
入れ歯に関するトラブルとして多いのは、「ひび割れ」「部分的な欠け」「人工歯の脱落」「金具の変形」などです。
朝の食事中に突然欠けたり、外出先で落として割れてしまうケースも珍しくありません。
こうした状況でやってしまいがちなのが、自宅にある接着剤での自己修理です。
しかし、市販の接着剤は口腔内に適さない成分を含むものが多く、歯ぐきや粘膜を傷める恐れがあります。また、自己修理によって歪みが生じると、専門家による本来の修理も難しくなることがあります。
まずは入れ歯を清潔な状態で保管し、破片があれば一緒に持参したうえで、
早めに歯科医院に相談するのが適切な行動です。
破損したまま無理に使用を続けると、噛み合わせのバランスが崩れ、残っている歯やあごの関節にも悪影響を及ぼす可能性があります。
「少しの割れだから大丈夫」と自己判断せず、早めの対応が大切です。
すぐ修理できるケースと、できないケースの違い
入れ歯の修理がその日のうちに可能かどうかは、「破損の程度」と「医院の対応体制」によって決まります。たとえば、入れ歯の一部が欠けた程度で、咬み合わせに問題がなければ、即日修理できるケースが多く見られます。
また、歯科医院に歯科技工士が常駐しているかどうかも大きなポイントです。院内に技工士がいる場合は、診察後すぐに技工室で修理に取りかかれるため、短時間での対応が可能になります。
一方で、破損が大きく入れ歯全体のゆがみがある場合や、素材の劣化が進んでいる場合は、その場での修理は難しくなります。このようなケースでは、外部の技工所に依頼したり、再製作が必要になるため、数日〜1週間程度かかることもあります。
また、入れ歯の使用年数が5年以上経っている場合は、素材自体が弱っており、修理してもすぐ再び壊れるリスクがあります。
このような場合には、無理に直すより、作り直しの方が快適に過ごせることも少なくありません。
「すぐ直せるかどうか」は電話やネットでは判断しづらいため、できるだけ早く歯科医院を受診し、正確な診断を受けることが重要です。
2.修理の流れと時間の目安とは
入れ歯が壊れてしまったとき、まず気になるのが「修理にどのくらい時間がかかるのか」という点です。ここでは、実際の修理の流れや、即日対応が可能な条件について詳しく解説します。
修理にかかる平均的な時間は?
入れ歯の修理時間は、破損の状態や医院の体制によって大きく異なりますが、
比較的軽度の破損であれば30分〜数時間程度で修理できることが一般的です。
たとえば、人工歯が外れた、義歯の一部が欠けた程度の症状であれば、即日対応が可能な場合が多く見られます。
一方、金具(クラスプ)が変形している場合は、慎重な調整が必要となり、1日程度の時間を要するケースもあります。また、破損の程度によっては、診察後に一度お預かりし、翌日以降にお返しするという対応になることもあります。
修理作業は見た目以上に繊細で、入れ歯の形状・素材・かみ合わせの調整など複数の要素を確認しながら行います。
そのため、「すぐ直る」と安易に判断せず、しっかりと診断を受けることが大切です。
その日に持ち帰れる場合と数日かかる場合
その日に持ち帰れる修理の代表例としては、以下のようなケースが挙げられます。
・ 部分的な欠け、ひび
・ 人工歯の脱落
・ 一部のレジン部分の補修 など
これらは、院内に技工士が常駐している医院であれば、診療後すぐに技工室で修理を開始し、1〜2時間ほどでお渡しできることがあります。
一方で、以下のような場合は数日かかる可能性があります。
・ 入れ歯全体に大きな割れがある
・ 金属床や特殊素材の入れ歯の修理が必要
・ 修理だけでは咬み合わせが合わず再調整が必要 など
このようなケースでは、外部の歯科技工所に依頼する必要があるため、
2〜5日ほどかかることが一般的です。
事前に準備しておくとスムーズなこと
入れ歯をスムーズに修理してもらうためには、来院前にいくつかの点を確認・準備しておくと安心です。
まず、壊れた入れ歯の全パーツを忘れずに持参することが基本です。小さな破片でも再利用できる可能性があります。
また、入れ歯の作製時期や過去の修理歴がわかる場合は、診断や修理方針の参考になります。
わからない場合でも、「何年前に作ったか」「どこで作ったか」などの情報があれば十分です。
加えて、「どんな状況で壊れたのか(落とした、噛んで割れた など)」を伝えることで、原因分析と再発防止にもつながります。
来院時に「今日中に使いたい」という希望がある場合は、予約時点でその旨を伝えておくと対応がよりスムーズです。
3.修理ではなく再製作になるケース
入れ歯が壊れた際、「修理で済む」と思っていたのに「作り直しになります」と言われて驚かれる方も少なくありません。
ここでは、どのような状態が再製作の対象となるのか、費用や期間、そして予防のために意識しておくべきポイントをお伝えします。
修理が難しい状態とはどんなとき?
まず、入れ歯の基盤部分(床)に大きなひびや割れが生じている場合、部分的な修復では強度が保てないため、再製作が必要になります。
特に、複数箇所に亀裂が走っている場合や、力がかかる部位が折れている場合は、修理を繰り返してもすぐに再発してしまいます。
また、入れ歯が変形してしまっている場合も修理が困難です。落下などでゆがんだ入れ歯は、元の形に正確に戻すことが難しく、噛み合わせや装着感に支障をきたすため、新しく作り直す方が確実です。
さらに、古い入れ歯(使用年数5〜7年以上)では、素材の劣化が進んでおり、修理しても強度が保てないケースが多く見られます。
表面の変色や臭いが取れない場合も、衛生面を考えて再製作を選ぶのが賢明です。
再製作になるときの費用・期間の目安
再製作にかかる費用は、保険診療か自費診療かによって大きく異なります。
保険の部分入れ歯であれば、数千円〜1万円台で済むこともありますが、制約があるため耐久性や装着感に限界があります。
一方、自費診療では使える素材や設計の自由度が高く、耐久性や見た目の自然さが向上します。
ただし費用は10万円〜30万円以上かかることもあり、どのような入れ歯にしたいかをしっかり検討することが大切です。
製作期間の目安は、保険診療であれば通常2〜3週間程度、自費診療の場合は4週間前後かかるケースが一般的です。
仮の入れ歯(仮義歯)を使いながら新しい入れ歯を完成させていく流れが一般的です。
早めの相談が再製作を防ぐカギ
多くの方が「もっと早く相談していれば修理で済んだのに」と後悔されています。
ひび割れや小さな違和感の段階で歯科医院を受診していれば、修理や調整で十分対応できることが多いのです。
特に、日常生活で「少し噛みにくい」「当たって痛い」「外れやすくなった」といった変化を感じたら、それは入れ歯に異常が起きているサインです。
こうした軽微なトラブルは、早期に調整することで大きな破損や再製作のリスクを防ぐことができます。
また、定期的な検診で入れ歯の状態をチェックすることで、素材の劣化や咬み合わせの変化にも早く気づくことができます。
再製作は時間も費用もかかりますので、負担を軽減するためにも「壊れてから慌てる」のではなく「壊れる前に相談」が理想です。
4.入れ歯修理で失敗しないために知っておきたいポイント
入れ歯が壊れたときは誰しも焦りますが、「どこでもすぐ直せるだろう」と思い込みで動くと、かえって時間もお金も無駄になることがあります。
ここでは、修理依頼で後悔しないために、あらかじめ知っておくべきポイントを整理してお伝えします。
修理を断られやすい医院と、対応が柔軟な医院の違い
すべての歯科医院が入れ歯の即日修理に対応できるわけではありません。
特に、技工所に外注している医院の場合は、どうしても預かり期間が発生し、修理完了まで数日を要することがあります。
一方、院内に修理用設備が整っている医院や、入れ歯治療に慣れたスタッフがいる医院では、その場で修理に取りかかれる体制が整っていることが多いです。
対応のスピードや柔軟性は、医院ごとに大きな差があるため、事前に確認することが重要です。
また、入れ歯の修理経験が少ない医院では、「作り直した方がいい」と即断されるケースもあります。本当に必要な対応かどうか、複数の医院で意見を聞くのも一つの方法です。
歯科技工士が院内にいる歯科医院を選ぶべき理由
歯科技工士が院内に常駐している医院では、診療と修理作業の連携がスムーズで、修理までの待ち時間が大幅に短縮されます。
また、患者さんの口の中の状態を技工士が直接確認できるため、精度の高い修復が可能になります。
例えば、ひびの角度や咬み合わせの位置を、歯科医師と技工士がその場で共有しながら対応できることで、再修理や再調整のリスクも減らせます。
即日対応を希望する場合は、「院内に技工士がいるかどうか」は非常に大きな判断基準になります。
また、同じ修理でも、素材の選択や処置の内容により、耐久性に差が出ることがあります。
素材や仕上がりにこだわりたい方にも、院内技工士がいる医院はおすすめです。
急ぎの修理依頼時に伝えるべき情報とは?
「できるだけ早く修理してほしい」と伝えるだけでは、正確な対応は難しい場合があります。
初診や電話予約時には、次の3点をできるだけ具体的に伝えることが大切です。
1. 破損の内容(欠け・ひび・割れ・金具の変形など)
2. いつ・どのような状況で壊れたか(落とした/噛んで割れた 等)
3. 入れ歯の使用年数や修理歴(わかる範囲で)
これらの情報があるだけで、医院側が「修理対応可能か」「即日で済むか」「どの素材や方法を選ぶか」の判断がしやすくなります。
また、壊れた入れ歯の破片や落とした部品は必ず持参し、できる限り清潔に保管しておくこともポイントです。