平成28年に厚生省が実施した歯科疾患調査によると、永久歯は通常50代から抜けはじめることが多いとされています。(50〜54歳での喪失歯数:2本)
事故などで失う場合もあり、歯を1本〜少数失った際に、噛む機能や見た目、治療費用、期間などそれぞれ個人の状況に適した選択をする必要があります。
今回は、そうした歯を1本失ったときのインプラント・ブリッジ・入れ歯の選択肢における、条件をメリット・デメリットなどを含めて詳しくご説明します。
1.1本でも歯が抜けたとき放置すると起こりうるリスク
1-1.歯並びの変化
歯並びというものは、なかなか意識しにくいですが、実はいろいろな影響を受けており、とても変化しやすいものです。
仮に、歯が1本なくなったとします。すると、その奥側の歯が、手前に寄ってきます。この時、まっすぐ隣に寄ってくることはまずありません。歯の頭である歯冠が前へ倒れこむような感じで、寄っていきます。つまり、歯が傾いてしまうのです。
そして、噛み合わせていた反対側の歯は、無くなった歯の部分に向けて伸びてきます。
抜けた両側の歯が傾く
このような変化は、欠損(歯が抜けた)した部分の隣の歯から生じ、その影響は残る全ての歯に伝わっていきます。すなわち、たった1本の歯の欠損であっても、これによって歯並びは大きく変化してしまうのです。
反対側の歯がのびてしまう
1-2.むし歯や歯周病のリスク
歯が欠損すると、歯の位置関係が変化していきます。それに伴い、歯と歯の間の隙間の形も変わってきます。隙間の形は、歯みがきのしやすさにも大きく影響してきます。
隙間関係の変化により、歯磨きがきちんとできなくなれば、その部位の歯茎が腫れて歯周病になるだけでなく、むし歯のリスクも上がってしまいます。
1-3.発音障害
上顎の歯に多いのですが、歯が無くなると、そこから空気が抜けてしまいます。そのために、発音が不明瞭になってしまうことがあります。
1-4.咀嚼障害
やはり、歯が無くなるとその分噛みにくくなってしまいます。噛みにくくなると、食べ物をしっかりと噛めなくなります。すると、胃や腸で消化するときにかかる負担が大きくなります。
1-5.審美障害
前歯が無くなると、顔つきなど外観に大きく影響してしまいます。
また、奥歯がなくなると、前歯で噛まざるを得なくなります。こうなると前歯に噛み合せの力がかかってきます。これにより下顎の前歯が上顎の前歯を突き上げて、出っ歯になってしまうことがあります。
2.1本歯が抜けたときの選択肢の比較
歯を失ったとき、そこを補う治療法は、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3種類が考えられます。それぞれの特徴はどのようなものなのでしょうか。
2-1.インプラント
2-1-1.インプラントってなに?
インプラントとは、無くなった歯の代わりとして、人工歯根を顎の骨に埋め込み、これを支えとして人工歯を装着して、噛み合せや見た目の回復を図る治療法のことです。
顎の骨に埋め込む人工歯根をフィクスチャー、その上につける人工歯を上部構造物、フィクスチャーと上部構造物をつなぐ部分をアバットメントといい、インプラントはこの3つから成り立っています。
2-1-2.インプラントがしっかりしている理由
インプラントのフィクスチャーは、純チタンやチタニウム合金で出来ています。フィクスチャーを埋め込むと、その周囲の骨がチタンと結合するようになります。これをオッセオインテグレーションといいます。フィクスチャーと骨が強固に結合することで、インプラントはしっかりと噛むことが出来るようになります。
2-1-3.インプラントの特徴
2-1-3-2.メリット
完成したインプラントの見た目は、とても自然な感じに仕上げることができるので、きれいです。
チタン性のフィクスチャーが骨としっかり結合するので、よく噛めます。
後述するブリッジのように、隣の歯を削ってかぶせる必要がありませんし、部分入れ歯のようなクラスプもないので、残された歯に余分な負担がかかることがありません。
適切にメインテナンスを行なえば、良好な経過が期待出来ます。
2-1-3-3.デメリット
フィクスチャーを埋め込むという外科治療が必要となります。患者の全身状態や年齢によっては、出来ないことがあります。
保険診療の適応外となるので、費用が非常に高額になります。
術後にご自身と歯科医院にてきちんとメインテナンスをしないと、歯周炎や脱離などを引き起こす可能性があります。
2-2.ブリッジ
2-2-1.ブリッジってなに?
ブリッジとは、両隣の歯を利用した被せものタイプの人工歯を装着することで、噛み合せなどの回復を図る治療法のことです。
まず、欠損した歯の両隣にある歯を削って、被せものを入れることが出来るようにします。この歯のことをブリッジを支える歯という意味で、支台歯(しだいし)とよびます。そして、その被せものと欠損した歯を補う人工歯を繋げることで、噛み合せなどを回復させます。
ブリッジは、かかってくる力を全て、支台歯で支えて負担するのが特徴です。
2-2-2.ブリッジの条件
どんなところでもブリッジを適応させることが出来るわけではありません。
2-2-2-1.欠損歯の本数
基本的に欠損歯は連続して2本までとなります。3本以上並んで欠損した場合は、ブリッジは使えません。あくまでも連続して3本以上ですので、3本以上の欠損歯があっても、離れていればブリッジに出来る場合があります。
2-2-2-2.支台歯
支台歯の本数が十分あることと、噛み合せの力を十分受け止められるほどしっかりしていることが必要です。ですので、むし歯や歯周病の状態によっては、支台歯として利用したくても出来ないこともあります。
2-2-2-3.噛み合せ
咬み合わせるべき反対側の歯の状態がブリッジを入れるのに支障がないことも、大切な条件です。欠損した状態で長期間放置していると、噛んでいた歯が伸びてくることがあります。そうすると、いざブリッジを入れようとしても、入れる余地がなくなっていることがあるからです。
2-2-2-4.衛生状態
ブリッジは、特に人工歯のところなど歯みがきがしにくい形状をしています。歯みがきなど、日頃からていねいにしない場合は、ブリッジを入れることで更にお口の衛生状態が悪化することがあります。すると、ブリッジの支台歯をはじめ、残された歯にも悪影響が及ぶ可能性が考えられます。
日常の歯みがきなどがしっかり出来ているかどうかは、とても重要です。
2-2-3.ブリッジのメリットとデメリット
2-2-3-1.メリット
接着剤で止める固定式となりますので、食事の度に外して洗う様な手間がかかりません。
歯の形に似た形態にするように作りますので、違和感も少なく、目立ちにくいという特徴があります。
2-2-3-2.デメリット
支台歯が必要となりますので、歯を削らなければ装着出来ません。もし、支台歯が健康な歯だった場合、削ることでしみてくることがあります。
そして、歯は削るとむし歯になりやすくなります。
また、取り外しが出来ないので、特に人工歯部の歯みがきが難しくなり、歯茎が腫れる原因になったりします。
2-3.部分入れ歯
2-3-1.部分入れ歯ってなに?
入れ歯とは、取り外し式の人工歯を使って、噛み合せや見た目の回復を図る治療法のことです。
入れ歯には、総入れ歯と部分入れ歯がありますが、欠損歯が1本だけの場合の入れ歯は、部分入れ歯となります。
部分入れ歯とは、残された歯にクラスプとよばれる金具をかけることで維持を図るタイプの人工歯です。
2-3-2.部分入れ歯の構造
1本タイプの部分入れ歯は、人工歯・義歯床・クラスプから構成されています。
人工歯とは入れ歯の歯の部分ことです。レジンやスルフォンというプラスチック製のものが多く使われています。
義歯床とは入れ歯のピンク色のところのことです。人工歯を支え、クラスプが組み込まれています。
クラスプとは、部分入れ歯が外れないように残された歯にかけている金属のバネのことです。両腕鉤、双歯鉤、ワイヤークラスプ、コンビネーションクラスプなどいろいろな形態のものがあります。使われる素材も、14金や金銀パラジウム合金、コバルトクロム合金などいろいろあります。
2-3-3.部分入れ歯の特徴
2-3-3-1.メリット
ブリッジと異なり、原則的に健康な歯を大きく削る必要がありません。
また、ブリッジのように欠損部の隣の歯の状態が悪いと入れることが出来ないということがありません。すなわち、適応範囲が広いです。
インプラントのように外科手術も必要なく、安心して治療に望むことができます。
取り外しが出来るので、障害があるなどで歯磨きがしにくい方でも、ブリッジと比べてお手入れがし易いです。
2-3-3-2.デメリット
人によっては違和感を感じる場合があります。
また、クラスプが必要なので、クラスプが前歯にかかると入れ歯ということが目立つことがあります。
3.まとめ
永久歯は、一度失うと二度と生え変わることはありません。ところが、そのままにしておくと、歯並びの変化だけでなく、むし歯や歯周病のリスクが高まってきます。また、抜けた歯がたとえ1本だけであったとしても、発音や咀嚼などへの影響は避けられません。
そこで、欠損した歯を補う治療をしなければならなくなります。それには、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3種類があります。それぞれにメリットとデメリットがあります。どの方法が適しているか、主治医の歯科医師とよく相談の上決めるようにしてください。
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