歯は毎食後どんなに丁寧に磨いていても、虫歯になり欠けてしまうことがあります。
虫歯になって出来た穴が小さければ、コンポジットレジンとよばれる樹脂で詰めて、その日のうちに治療を完了させることも出来ます。
しかし、ある程度まで虫歯が大きくなってしまいますと、そうもいかなくなり、歯を削った後に、歯型をとって被せて治す方法を選択せざるを得なくなります。
この差し歯について、従来は上顎と下顎の前歯までは、保険診療でも表面を白い樹脂でコーティングし見た目を自然にした差し歯がありましたが、前歯でない臼歯とよばれる奥歯については、いわゆる銀歯のみ適応とされてきました。
この場合の前歯とは、歯並びの中心から奥へ向かって3本までの範囲の歯を指します。すなわち、上顎と下顎、左右あわせて12本しか、白い差し歯を入れることが出来なかったのです。
ところが、この度、保険診療の制度が改訂されたことにより奥歯全てというわけではありませんが、一部の奥歯について白い差し歯を入れることが出来るようになりました。
そこで、この新しい白い差し歯についてまとめてみました。
1.CAD/CAM冠って何?
1-1.歯科診療にもおしよせてくるデジタル化の波
差し歯は、今までは歯科技工士が、歯科医師が歯型とって石膏を流し込んで作った石膏模型に専用の”蝋(ろう)”を盛り上げて、1つ1つ手作業で作っていました。
差し歯を作製するのは、そんな職人芸の世界でしたが、近年のデジタル化の波が歯科技工業界にも押し寄せ、コンピュータを駆使して差し歯を作る方法が開発されました。
差し歯の設計や製作段階をコンピュータ制御の機械を組み込んだシステムにより代替されることで、歯科技工士の技術に依存していたためにバラツキのあった歯科技工物の品質が一定になり、作業の効率化も図られるようになりました。
また、従来の手作業での歯科技工では扱えなかった素材の中には、コンピュータ制御の機械でなら加工できるものもあり、新しい歯科材料として、歯科診療の選択の幅が広がるようになりました。
1-2.CAD/CAM冠について
このようにコンピュータを導入しデジタル化されつつある歯科医療の世界で、最もポピュラーなコンピュータ制御の機械による差し歯が、CAD/CAM冠と言われるタイプの差し歯です。
CAD/CAM”とは、Computer-Aided Design/Computer Aided Manufacturingの略で、コンピュータを用いて設計や製造を行うという意味です。
産業の分野では、何十年も前から工業製品の製作現場で使われてきました。歯科医療の世界では、1985年にスイスで開発されたものが初めてと言われています。ですから30年ほどの歴史があります。
その後、日本では保険診療適応外としては認可を受け採用されていましたが、保険診療の適応でなかったため、非常に高額であり一般的ではありませんでした。
ところが、2014年の保険診療の改正時に、保険診療に組み込まれました。これによって、一般により身近な存在になりました。
1-3.CAD/CAM冠に用いられる素材
CAD/CAM冠に用いられる素材は、金属系から樹脂系、セラミックス系といろいろな種類があります。
歯の色に近似した白色のタイプはこのうち、樹脂系とセラミックス系になります。
ただ、保険診療で適応となっているのが、これら全てというわけではありません。
保険診療で用いられるようになったCAD/CAM冠は、ハイブリットレジンとよばれる樹脂系ものです。これは、従来からあるレジンというプラスチック素材にセラミックスの微粒子を配合したものです。
レジン単体では、強度が足りず、使っているうちに徐々にすり減ってくるのですが、そこにセラミックスの微粒子を混ぜることでレジンの強度を強くしているのが特徴です。
1-4.今までの差し歯の製作方法
従来から使われていた保険診療の差し歯と比べて、もっとも大きく異なるのが、その製作方法です。
従来からの差し歯は、歯科技工士がひとつひとつ手作業で作っておりました。
歯科医院から送られてきた石膏模型とよばれる石膏で出来た歯型をもとに、ワックスアップという専用の蝋を盛って歯の形に作り上げていました。
その蝋で出来た差し歯を専用の容器に入れ、埋没材という熱に強い特殊な石膏を流し込んで埋めてしまいます。それを非常に高温な状態に焼き上げます。すると熱で蝋が溶けて石膏の間に隙間が出来ますので、そこに別で溶融させて液体化した金属を流し込みます。
融けた金属が隅々まで流れ込むように遠心機にかけて、冷えかたまったら取り出します。
形態に異常がなければきれいに磨き上げて終わりになります。
1-5.CAD/CAM冠の製作方法
CAD/CAM冠の場合は、この手作業の部分がほとんど無くなります。
CAD/CAM冠の素材は、樹脂系もセラミックス系も一塊のブロックとして存在しています。これをCAD/CAM冠製作専用の特殊な装置にセットします。
スキャナーで読み取られた歯型のデータをもとに、樹脂やセラミックスのブロックを自動的に削り出して作ります。ですから、スキャナーでの歯型の読み込みさえ問題なければ、誰が作っても同じ条件で同じ形の差し歯が出来上がりますので、製作されたものの品質のばらつきがなくなります。
また、製作自体も1つの密閉された箱に収納された装置の中で行なわれるため、今までの粉塵がまい、熱や騒音を伴う机の上での製作作業と異なり、非常に清潔で快適な環境で作業出来ます。
将来的には、歯科技工の世界は、このようにコンピュータと機械が自動で製作するのが普通になり、一部の非常に高価な差し歯のみ手作業で作るようになるのかもしれません。
2.保険診療でのCAD/CAM冠の適応範囲
2-1.CAD/CAM冠を使える歯ってどの歯でも使えるの?
保険診療で適応となったCAD/CAM冠ですが、すべての歯について適応されるわけではありません。
上顎と下顎の第一小臼歯と第二小臼歯という歯についてのみ適応となりますので、合計8本までです。
第一小臼歯とは中心の前歯から数えて4番目の歯、第二小臼歯とは5番目の歯のことをいいます。
もちろん、虫歯を削った歯の健全な部分が、CAD/CAM冠を装着しても十分もちそうなくらい残っていることが大前提です。
ところで、それよりも奥側に歯はありますが、通常はCAD/CAM冠の適応とはなりません。
ただし、金属アレルギーがある場合に限って、皮膚科医師などからの患者さんのアレルギー情報の文書による提供があれば、大臼歯とよばれる小臼歯よりも奥の歯に用いることが出来る場合があります。
しかし、厚生労働省もハイブリットレジン系のCAD/CAM冠を大臼歯に使った場合の強度には、改善の余地があると考えているような節があります。
なぜならCAD/CAM冠大臼歯の場合には、他の差し歯とは異なり、補綴物維持管理料とよばれる冠を装着してから2年間の維持管理費を設定していないからです。
2-2.CAD/CAM冠を取り扱える歯科医院について
保険診療に導入されたCAD/CAM冠ですが、どこの歯科医院でも扱えるというわけではありません。
患者さんに用いる際には、施設基準とよばれる厚生労働省が設定した歯科診療施設の条件に合致している必要があります。
施設基準については、歯科医師、歯科技工士、CAD/CAM装置の3つの条件について設定されています。
まず、歯科医院に在籍する歯科医師のうち、少なくとも1名については、差し歯の治療の専門的な知識を持つだけでなく、3年以上の歯科治療経験をもっていることが必要とされています。
この点について、差し歯の治療は、一般的な歯科治療の1つですから、その専門的な知識のない歯科医師はほとんどいないと言えますし、研修医の歯科医師以外であれば3年以上の歯科治療の経験年数は、一部の研究職を除いて、もっている場合が大半でしょうから、この基準に外れることはまずないでしょう。
また、歯科医院に歯科技工士が配置されていることが条件にされていますが、歯科技工士がいない歯科医院においても、歯科技工所と連携がとれていれば問題ありません。
そして、CAD/CAM冠を製作するための装置が歯科医院に設置さていることも条件にされていますが、歯科技工士同様、歯科用のCAD/CAM装置を保有している歯科技工所と連携しているならば、認めてもらえます。ですので、この施設基準をクリアしていることを申請する必要がありますが、それほど難しい条件ではありません。
申請さえしていれば、日本国内にあるほとんどすべての歯科医院で取り扱うことが出来るといえます。
3.CAD/CAM冠のメリット
CAD/CAM冠の利点は、その見た目の自然さにあります。
もちろん、よりきれいなのは保険診療の適応外のセラミックス系のCAD/CAM冠ですが、保険診療のCAD/CAM冠であっても従来の銀歯と比べれば、非常にきれいな見た目を有しています。
また、CAD/CAM冠は金属材料をまったく使いません。ですから、たとえば歯科用の金属に金属アレルギーがある患者さんでも安心して装着することが出来ます。
4.CAD/CAM冠のデメリット
保険診療の導入されたCAD/CAM冠ですが、第一及び第二小臼歯が虫歯になった場合に、被せて治すときには非常に有用です。
しかし、歯を失った場合に用いられるブリッジというタイプの差し歯については、今までの金属で作られた差し歯と異なり、強度の点から用いることは出来ません。
また、歯が歯周病などで動いていたりするときや、もしくは虫歯がとても大きいために被せを入れようとしても安定しなさそうなときなどに、他にいい方法がない場合、その隣にある歯の差し歯とくっつけて、2つでまたは3つの歯の差し歯をまとめて1つの差し歯として安定を図ることがあります。
これを”連続冠”もしくは”連冠”といいます。金属で作られていた従来型の差し歯であれば、このような方法を用いて、ぎりぎりまで歯をもたせることも出来ますが、CAD/CAM冠の場合は2つの冠を接合して安定を図ることが出来ないので、こうした歯については適応することが出来ません。
このようにCAD/CAM冠には限界もありますので、適材適所をきちんとおさえておく必要があります。
まとめ
新たに保険診療に導入されたCAD/CAM冠は、今までの保険診療で使われてきた銀歯と比べて、白い色をしておりますので、見た目が非常にきれいな外観をしているのが特徴です。
白い歯の詰め物や差し歯といえば、歯科の世界ではレジンという材料が一般的です。しかし、白くて目立ちにくいという利点の反面、強度に劣るという欠点があります。
CAD/CAM冠用のレジンの場合は、セラミックス系の微粒子を混ぜて、ハイブリットレジンとすることで、レジンの弱点であった強度の点を改善しています。しかも金属材料をまったく使わないということで、金属アレルギーでお困りの方にも安心して使ってもらうことが出来ます。
しかし、強度を改善していると言っても金属にはやはり劣ってしまいます。そのためにブリッジという歯を失った場合の差し歯に適応することは現時点では出来ません。また、金属製の差し歯とは違い、隣の歯のかぶせものと合体させて安定を図るようなことも出来ません。
CAD/CAM冠には、このようにいい点もあれば、弱点もあります。第一小臼歯および第二小臼歯の虫歯の際には、かかりつけの歯科医師に相談して、選ぶようにしてください。
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