「入れ歯に小さなヒビが…でもまだ使えるし様子を見よう」そう思ってそのまま使い続けていませんか?
入れ歯のひび割れは、放置することで大きなトラブルへとつながることがあります。
この記事では、入れ歯にひびが入る原因や放置によるリスク、修理と作り直しの判断基準、そして予防のポイントまで、歯科医師の視点から詳しく解説します。入れ歯を長く安心して使うために、ぜひ最後までお読みください。
1.入れ歯のひび割れ、放置していいの?
入れ歯に小さなひびが入った際、「まだ使えるから大丈夫」と思って放置してしまう方は少なくありません。しかし、その判断が大きなトラブルにつながることもあるため注意が必要です。
ここでは、入れ歯のひび割れを放置することで起こり得る問題や、正しい対処の考え方についてお伝えします。
「少しの割れだから大丈夫」は危険
わずかなひびでも、入れ歯全体の強度は確実に落ちています。一見すると小さな傷に見えても、咬む力がかかるたびに亀裂が広がり、やがて完全に割れてしまうケースが多くあります。
特に上下のかみ合わせがずれていたり、片側だけで噛む癖がある方では、入れ歯の一部分に負担が集中し、ひびの進行が早くなります。
割れた入れ歯を無理に使い続けると、残っている歯や歯ぐきにも過度な力がかかり、健康な部分を傷めてしまうことがあります。
さらに、ひびの部分には食べ物のカスや細菌が入り込みやすく、衛生面でも大きな問題となります。
表面上はきれいに見えても、内部でカビや細菌が繁殖してしまうリスクも否定できません。
放置で悪化するリスクとは
ひび割れた入れ歯を使い続けると、口の中にさまざまな悪影響が出ることがあります。
たとえば、入れ歯のずれによって歯ぐきに強く当たる部分ができ、口内炎や出血を引き起こすことがあります。
また、割れ目が舌や頬の内側に触れて、粘膜に傷をつけることも少なくありません。
慢性的な刺激が続くと、粘膜が厚く変化して入れ歯がさらに合わなくなり、再製作時の精度にも悪影響を与えることがあります。
加えて、無意識のうちに噛み方を変えてしまうことで、顎の関節に負担がかかり、顎関節症の一因となる可能性もあります。
口が開けづらくなったり、音が鳴ったりといった症状が出た場合には、早急な対応が必要です。
入れ歯のひびは自然に治ることはなく、放置すれば必ず悪化します。
放置によって修理で済んだものが作り直しになったり、他の歯や歯ぐきまで影響を受けてしまう前に、早めの診断と処置を受けることが大切です。
2.なぜ入れ歯にひびが入るのか?
入れ歯にひびが入る原因は、単なる経年劣化だけではありません。
素材の違いや使用状況、日頃のお手入れ方法など、さまざまな要因が重なってトラブルにつながります。ここでは、ひび割れが起こる主な理由を3つの視点から解説します。
素材ごとの特徴と劣化の原因
入れ歯には、レジン(樹脂)、金属、シリコーンなどさまざまな素材が使われています。
その中でも保険診療で使われるレジンは軽く扱いやすい反面、衝撃に弱く、ひびが入りやすいという特徴があります。日常的に強い咬合力が加わると、目に見えない内部の応力が蓄積し、ある日突然ひびが入ることがあります。
また、レジンは、長年の使用によって素材が脆くなる傾向があります。金属製の入れ歯は強度が高い一方で、硬いため衝撃を受けたときに変形することはあります。素材によって割れやすさ・壊れ方が異なるため、特性を理解したうえで取り扱う必要があります。
使用年数・噛み合わせ・お手入れ不足の影響
入れ歯は長く使っているだけでも確実に劣化します。
特に5年以上同じ入れ歯を使っている場合は、ひび割れや変形のリスクが高まります。
また、咬み合わせがずれていたり、片側だけで食事をしていると、一部に負荷が集中してひびが入りやすくなります。ご自身では気づかないクセが、入れ歯の耐久性を著しく低下させていることもあるのです。
加えて、毎日の清掃が不十分であると、細かい傷に汚れや細菌が入り込み、素材の劣化を早めます。
研磨剤入りの歯磨き粉を使うと微細な傷が増え、そこから劣化が進行する場合もあります。
よくある割れ方のパターンとは
実際の診療現場で多く見られるのが、中央から左右に亀裂が広がる「縦割れ」です。
これは、上下の入れ歯同士の強い接触や、硬い食べ物を噛んだときに発生しやすい傾向にあります。
また、入れ歯の一部が欠けている場合や、歯と歯の間のつなぎ目に線状のひびが入ることもあります。
特に、装着時に強く押し込んだり、落とした際の衝撃が原因で破損するケースが少なくありません。
就寝時に外した入れ歯を乾いたまま放置することで、素材が収縮・膨張を繰り返し、ひびが入るケースもあります。保管方法ひとつで寿命が大きく左右されることを理解しておくことが大切です。
3.ひび割れを見つけたときにやってはいけないこと
入れ歯にひび割れを見つけたとき、慌てて自己流で対処しようとする方が少なくありません。
しかし、間違った対応は症状の悪化や治療の難航を招きます。
ここでは特に注意が必要な2つの行動について詳しく解説します。
自分で接着剤などで直そうとするのは危険
市販の接着剤で入れ歯を修理しようとする方がいらっしゃいますが、これは非常に危険な行為です。
家庭用接着剤には有害な成分が含まれていることが多く、口の中に使用することで粘膜を刺激し、炎症やアレルギー反応を起こすことがあります。
また、接着剤で貼り合わせた部分は強度が不十分なうえ、わずかなズレやねじれが生じやすいため、咬み合わせの狂いを生む原因にもなります。その結果、噛む力が偏って他の歯や顎に負担がかかり、さらなるトラブルに発展しかねません。
さらに、接着剤が入れ歯にしみ込んでしまうと、修理の際に除去が難しくなり、専門の技工所でも対応できなくなるケースもあります。大切な入れ歯を再利用できなくなるリスクがあることを覚えておきましょう。
痛みがないからとそのまま使い続けるリスク
ひびが入っていても「痛くないから」「使えているから」と、そのまま使い続ける方も多くいらっしゃいます。
しかし、この判断こそが将来的なトラブルを引き寄せる原因となるのです。
ひびの入った入れ歯は、かみ合わせのバランスが崩れていることが多く、知らないうちに顎や筋肉に無理な力をかけてしまいます。しばらくしてから「噛みにくい」「顎が疲れる」「音が鳴る」といった症状が出ることも珍しくありません。
また、見た目には変化がなくても、内部でひびが広がっている場合があります。
力が加わった拍子に突然真っ二つに割れてしまい、外出先や食事中に困ってしまったという方も多く見受けられます。
ひび割れは自然に治ることはなく、悪化する一方です。たとえ違和感がなくても、見つけた段階で歯科医院を受診することが最善の対応です。
4.ひび割れた入れ歯、修理と作り直しの判断基準
入れ歯にひびが入った場合、「修理で済むのか、それとも作り直すべきか」と悩む方は多くいらっしゃいます。実はひびの程度や入れ歯の状態によって、対応方法は大きく変わります。
ここでは判断の目安となる3つのポイントをお伝えします。
小さな割れなら修理で済むケース
入れ歯の表面に浅いひびが入っている程度であれば、多くの場合は修理が可能です。
たとえば、部分入れ歯の歯の間に小さなヒビが入っただけなら、専用の接着材と加工で1〜2日で対応できるケースもあります。
また、入れ歯を落として端が欠けた程度の破損であれば、元の形に近い状態まで補修することができます。ただし、修理には限界があり、あくまでも「一時的な延命処置」であることを理解しておく必要があります。
割れの範囲が狭く、素材自体に劣化が見られないこと、また咬み合わせに狂いが生じていないことが修理の条件です。それらがクリアされていれば、比較的短期間で元のように使用できる可能性があります。
土台や咬み合わせのズレがある場合は再製作を
ひびが深く、入れ歯の土台部分まで達している場合は、再製作が必要になるケースが多くあります。
特に、割れた部分が歪んでいたり、歯ぐきにうまく接触しなくなっている場合は、修理では対応できません。
また、咬み合わせがずれている状態で無理に使い続けた結果、複数箇所にひびが入っている場合も再製作の対象です。このような場合は修理してもすぐに再発する可能性が高く、かえって時間と費用が無駄になることもあります。
再製作では、現在の口腔内の状態を改めて精密に型取りし、歯ぐきや骨の変化に合わせた新しい入れ歯を作ります。
結果として、以前よりも快適に使えるようになる方も多く、前向きな選択として捉えていただけると良いでしょう。
保険と自費の対応範囲と注意点
修理や再製作を行う際、保険診療と自費診療の違いを理解しておくことも大切です。
保険診療では使用できる材料や工程に制限があるため、修理できる範囲にも一定の制約があります。
一方、自費診療では、より強度の高い素材や、見た目・噛み心地にこだわった設計が可能です。
その分費用はかかりますが、耐久性が高く、再び割れるリスクを大きく下げることができます。
「何がベストか」は人によって異なります。歯科医と十分に相談し、ご自身の使い方や生活スタイルに合った選択をすることが大切です。
当院では、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、納得のうえで最適な方法をご提案しています。
5.入れ歯のひび割れを防ぐためにできること
入れ歯のひび割れは、一度起こると再発しやすい傾向にあります。
しかし、日常の扱い方や定期的な点検を意識することで、ひびを未然に防ぎ、入れ歯の寿命を延ばすことが可能です。
長持ちする使い方と保管方法
まず大切なのは、使用中に不要な力をかけないことです。
食事の際に硬い食材を避けることはもちろん、無理に片側だけで噛まないよう注意しましょう。
入れ歯の着脱時にも、力任せに押し込んだり引き抜いたりすると、歪みやひび割れの原因になります。
できるだけ両手で丁寧に扱い、落とさないように洗面台にタオルを敷くなどの工夫も効果的です。
保管時には乾燥を避け、水か専用の保存液に浸して保管することが基本です。
乾燥した状態で長時間放置すると、素材が収縮・変形し、細かなひびが入りやすくなります。
定期点検と早期の調整の重要性
入れ歯の破損は、事前に兆候が現れていることも多く、定期的な点検によって早期発見が可能です。
少しでも違和感やぐらつきを感じたら、それはひび割れ予備軍のサインかもしれません。
歯ぐきの形や咬み合わせは加齢とともに少しずつ変化するため、それに応じて入れ歯を調整する必要があります。
点検を怠ると、見た目は問題がなくても、咬み合わせのズレからひびが入りやすくなることがあります。
半年〜1年に一度の定期受診を習慣にすることで、破損のリスクを抑えながら快適に使い続けることができます。「異常がないから行かない」のではなく、「異常が出る前に行く」ことが大切です。
当院でのサポート体制とアフターケア
当院では、入れ歯の製作後も長く快適にお使いいただけるよう、アフターケアを重視しています。
定期検診では、咬み合わせや素材の劣化を細かくチェックし、必要に応じて微調整を行います。
また、ひびの入りやすい使い方や保管方法についても、患者さま一人ひとりの生活に合わせてアドバイスいたします。
万が一破損が起きた際も、迅速に対応できる体制を整えており、修理と再製作の判断も的確に行います。
「入れ歯が割れるかも」という不安を抱えながら過ごすのではなく、安心して使い続けられる環境づくりをサポートしています。入れ歯で少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
6.まとめ
入れ歯のひび割れは、見た目以上に深刻な問題を引き起こすことがあります。
少しのひびでも無理に使い続ければ、口内の傷・咬み合わせの乱れ・全身の不調へとつながる可能性があります。
当院では、ひび割れの修理や再製作はもちろん、入れ歯を長持ちさせるためのアドバイスや定期点検も行っています。
「割れたけど、どうしたらいいかわからない」と感じたら、ぜひ一度ご相談ください。あなたにとって快適で安心な入れ歯生活を、全力でサポートいたします。