歯は、身体の中で最も硬い性質を持っている為、骨の様にしなることなく、欠けてしまうことがあります。
もし歯が欠けたときに、歯がかけてしまう原因、またそのまま放置していたらどうなるのか、そして、欠けたときの治療方法について詳しくご説明します。
1.歯の構造
まずは、歯の構造から説明します。
歯は、歯茎より上の歯冠(しかん)とよばれる頭の部分と、下の歯根(しこん)という根の部分から成り立っています。歯冠と歯根の形はすべての歯で異なっていますが、その構造は全て共通です。
歯冠の最表層は、エナメル質というとても硬い性質のもので覆われています。そして、その内側が象牙質(ぞうげしつ)という部分になります。象牙質の中心部には、歯髄腔(しずいくう)という空洞があり、歯根の先まで繋がっています。
いわゆる歯の神経は、この空洞の中にあります。歯の神経のことを歯髄(しずい)というので、歯髄が入っている空洞ということで、歯髄腔と言います。
歯根は表層をセメント質という部分が覆っています。その内側は歯冠と同じく象牙質です。セメント質の周囲には歯根膜という薄い靭帯があり、この歯根膜を介して骨と繋がっています。
2.歯が欠ける原因
歯が欠けてしまうことを、歯冠破折(しかんはせつ)といいます。なお、歯が割れたという場合は、歯根破折となります。
歯冠破折は、1〜2歳頃の乳幼児や低学年の小学生、または思春期頃に多発する傾向があります。乳幼児の場合は、歩き始める時期に当たり、この頃に顔から転倒によって歯冠破折を起こすことが多いです。同じ転倒でも、転倒時に手をついて顔を守ることができるかどうかが、大きく影響してきます。
小学校の低学年の頃もやはり転倒が多いのですが、衝突や転落などの割合が増えてきます。特に体育の時間に転倒したり衝突したりすることや、自転車での事故が多いようです。
思春期頃では、スポーツによる転倒・衝突・接触などが増えてきます。また、交通事故の割合も増加します。そのため、スポーツをするときにマウスピースなどのプロテクターをつけて歯を守ることが推奨されています。
・歯根破折については、以下の記事で詳しく説明しています。
虫歯を削らずに保険で白く治療!コンポジットレジンとは
3.歯が欠けるとはどういうこと?
歯冠破折は、歯冠のどの部分が欠けたかによって、大きく分けて3つに分類出来ます。なお、分類法はその他にも幾種類かあります。
どの分類法を選んでも間違いはありません。担当した歯科医師が受けてきた研修によりどの分類方法を選ぶかが決まってきます。
3-1.不完全破折
歯冠のエナメル質の部分に亀裂が入っただけの状態です。歯の形や、レントゲン写真に異常は認められませんが、肉眼的にエナメル質の表面に亀裂が入ったのが見えるものです。
3-2.露髄を伴わない歯冠破折
露髄とは、歯の神経が露出した状態を指しています。ですので露髄を伴わないとは、歯は欠けているが、歯の神経にまでは及んでいないことを意味します。すなわちこの場合の破折は、破折部分がエナメル質にとどまった状態、もしくは象牙質まで破折が及んでいるが、歯髄腔にまでは及んでいない状態ということです。
3-3.露髄を伴う歯冠破折
象牙質まで破折が及んで、しかも歯髄腔に達するまで欠けている状態です。
4.歯が欠けた場合の欠け方別の治療法と料金
4-1.不完全破折
4-1-1.治療の目的と方法
この場合の治療の目的は、歯髄を極力生かすということにあります。そこで、もし歯がしみて痛む場合は、コンポジットレジンと呼ばれるプラスチック製の歯科用の材料などを用いて歯の亀裂部分を保護するようにします。
4-1-2.経過と予後
基本的には、1か月、および3か月後に経過を確認します。経過観察は、少なくとも1年間は行うことが求められています。
一般的に予後は良好です。
4-2.露髄を伴わない歯冠破折
4-2-1.治療の目的と方法
この場合の治療の目的は、歯髄を極力生かすことと、見た目と歯の持っている機能を回復することにあります。そのために、欠けた部分を接着剤で接着したり、コンポジットレジンを詰めて歯の形を治します。もし、歯髄に近いところまで欠けている場合は、欠けている底の部分に、痛み止めの薬を塗ってから、詰めることもあります。
基本的には、1か月、および3か月後に経過を確認します。経過観察は、少なくとも1年間は行うことが求められています。
4-2-2.経過と予後
一般的に予後は、露髄を伴わないので良好です。欠けた後、なるべく早急に処置を行えば、その分経過も良好になります。
4-3.露髄を伴う歯冠破折
4-3-1.治療の目的
この場合の治療の目的は、なるべく歯髄を温存すること、そして見た目と歯の機能の回復にあります。
4-3-2.治療の方法
治療の方法は、欠けた歯の歯根の状態によって変わります。
4-3-2-1.根未完成歯の場合
根未完成歯とは、成長途上の歯のことです。レントゲン写真を撮影すると、歯根の先端が開いた状態に写し出されます。
この場合は、露髄の程度と歯髄の状況によって、痛み止めの薬を歯髄に直接塗布する方法か、もしくは歯髄の一部を取り除く方法を行います。そして、しばらくの間セメントなどで仮に詰めておきます。1〜2か月ほど、この状態を保ち、問題がなければセメントを取り除いた上で、コンポジットレジンなどで歯の形を治します。
4-3-2-2.根完成歯の場合
根完成歯とは、成長が終わり、きちんと生えきった歯のことです。
欠けてから24時間以内であれば、根未完成歯の場合と同じように、露髄の程度と歯髄の状況によって、痛み止めの薬を歯髄に直接塗布する方法か、もしくは歯髄の一部を取り除く方法を行います。そして、しばらくの間セメントなどで仮に詰めておき、1〜2か月後、問題がなければ仮に詰めたセメントを取り除き、コンポジットレジンなどを詰めて歯の形を治します。
しかし、24時間以上経過していた場合や、露髄の程度が大きい場合、歯の神経を取り除く治療を行います。歯の神経を取り除く処置をしたのち、歯根に土台を立てて差し歯を作って見た目と歯の機能の回復を図ります。
4-3-3.経過と予後
1か月、3か月後に経過を観察します。その後は、少なくとも3年は経過観察を続けます。予後は、欠けたのちに、どれだけ早期に治療にとりかかれるかによって大きく左右されます。
5.歯が欠けた状態を放置すると
欠けたのち、どれだけ早急に治療を行うことができるかが、予後に大きく影響します。
5-1.不完全破折
5-1-1.欠ける
亀裂部分から歯が欠けてしまうことがあります。
5-1-2.むし歯
亀裂の入った部分から、むし歯になる可能性があります。むし歯は、むし歯菌の出す乳酸により歯が溶かされることで起こります。
歯はエナメル質が最も硬く、しかもむし歯の原因たるむし歯菌の乳酸にも強いです。亀裂の部分からむし歯菌が侵入することで、その部分からむし歯になり、歯が欠けてしまいます。
5-2.露髄を伴わない歯冠破折
5-2-1.むし歯
破折した表面は、むし歯菌が出す乳酸に弱いため、この部分からむし歯になります。むし歯になっても早期に治せば、歯髄を保存できる可能性があります。
5-2-2.歯髄炎
歯冠破折を起こしたのち、時間が経ってくると歯髄が冷たいものだけでなく熱いものでも痛くなるようになります。この状態が歯髄炎です。歯髄炎を起こした場合は、歯髄を取り除く処置をすることになります。
5-2-3.歯髄壊死
歯髄が破折した部分からの刺激などにより、壊死してしまうことがあります。この場合、腫れたり痛んだりすることもあります。歯髄が死んでしまった場合は、歯髄を取り除く治療をしなければなりません。
5-3.露髄を伴う歯冠破折
5-3-2-1.根未完成歯の場合
露髄した部分からのむし歯菌が歯髄に侵入し、歯髄がやがて壊死していきます。痛みも伴います。破折した表面にはむし歯ができます。根未完成歯であっても歯髄の治療を行い、歯の保存を試みますが、成長途上の歯であるため、歯髄どころか、歯そのものを残すことが難しくなることもあります。
5-3-2-2.根完成歯の場合
露髄した場合は、その部分は当初とても痛くなります。冷たいものや温かいものの刺激に特に痛みを感じます。しかし、時間が経つと、痛みを感じなくなってきます。歯髄が壊死してしまうからです。歯髄が壊死すれば、冷たいものや温かいものの刺激に反応しなくなるのですが、体調不良などの原因により急激に腫れたり、痛くなったりすることがあります。
また、破折表面にむし歯が発生します。歯髄を取り除く処置を行いますが、むし歯が深くまで進んでいた場合は、差し歯をして治すことが難しくなり、抜歯しなければならなくなることもあります。
まとめ
歯が欠けたときに、どの状態まで欠けたかによって、治療方法が変わってくることがおわかりいただけたかと思います。
また、欠けた歯をそのまま放置することは、むし歯の原因になったり、最悪の場合は歯を残すことが難しくなります。
歯冠が破折した場合、破折した時点から、なるべく早急に治療を開始する方が、予後が良好です。
破折した場合、できるだけ早めに歯科医院を受診するようにしましょう。
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