口は、食べ物を食べたり、ことばを発したりと、人間が生活をおくる上で欠くことの出来ない役割を担っています。
食べたり話したりするためには、お口を開けるという動きが欠かせません。しかし、いろいろな原因でお口を開けることが難しくなることがあります。これを開口障害といいます。
開口障害はどうしておこるのでしょうか。そして、どのように治療をするのでしょうか。詳しく解説します。
1.お口が開かない原因
開口障害を引き起こす原因は、ひとつではありません。しかもそれらが複合して起こっていることもあります。代表的な原因として、いくつか挙げてみます。
1-1.関節痛
お口を開け閉めする際に機能する関節が、顎関節です。
顎関節症で顎関節に痛みを生じるのは、全体の10%ほどといわれています。
顎関節症での関節痛の特徴は、外傷や細菌感染などによる炎症と異なり、通常は痛みを感じないことが多いという点にあります。すなわち、お口を閉じた状態で安静を保っていれば、痛みが発現しません。もちろん、そうでないことも少ないながらも認められますが、ほとんどの場合、お口を開け閉めするときの痛み=運動痛として現れてきます。
したがって、顎関節に関節痛を生じるとお口を開けることが難しくなります。
1-2.筋肉痛
お口を開け閉めするために使う筋肉を、咀嚼筋といいます。咀嚼筋には、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋があります。そのほか、顎二腹筋、胸鎖乳突筋などもお口の開けしめに関与しています。
これらの筋肉のいずれかに痛みが生じると、多くの場合、咬筋や側頭筋といった閉口筋の伸展が制限されてきます。動きの悪くなった閉口筋が伸ばされることで痛みが生じます。その結果、お口を開けにくくなります。
1-3.クローズドロック
顎関節は、側頭骨と下顎骨で構成されています。両者は直接触れ合うことはなく、その間には関節円板という軟骨が介在しています。
通常は下顎骨の動きに応じて関節円板も動くのですが、関節円板が開口時にずれて、そのずれた状態が元に戻らなくなることがあります。これをクローズドロックといいます。
関節円板がずれても閉口出来ないことはないので、お口が開いたままにはならないのですが、次にお口を開けようとしても、関節円板がひっかかりお口が開けにくくなってしまいます。
1-4.下顎骨や側頭骨の変形
顎関節を構成している下顎骨の先端部分を、下顎頭といいます。この下顎頭や側頭骨の関節面の形状が変形してしまうと、関節腔内で組織の癒着や関節包の線維化などの変化が起こり、開口障害や痛みが発生します。
1-5.外傷
交通事故や転倒、スポーツ、殴打などで下顎骨を強打することで、強い力が下顎骨に加わります。その結果、顎関節とその周囲組織を含めた炎症がおこります。これを外傷性顎関節症、外傷性顎関節炎といいます。顎関節に炎症が起こることで、開口障害が発現します。
1-6.破傷風
破傷風とは、クロストリジウム・テタ二(Clostridium tetani)、いわゆる破傷風菌に感染し、その細菌が産生する毒素によって生じる中毒性疾患です。
破傷風菌の産生する毒素は神経に作用し、筋肉の動きを抑えることが難しくなってしまいます。そのために、筋の硬直がおこり、筋の動きが悪くなってしまいます。
お口を開け閉めする咀嚼筋にも、この毒素は作用します。咀嚼筋はいろいろありますが、中でも咬筋という筋肉に影響が現れやすいです。これは、咬筋から筋肉を動かす脳神経の運動核までの距離が、他の咀嚼筋と比べて短いという解剖学的な特徴によります。
そのため、咬筋が収縮したままになります。咬筋は閉口筋という、お口が閉じるための筋肉です。閉口筋が働いたままになってしまうので、文字通りお口が開かなくなります。
2.お口が開かないときの専門診療科
お口が開かない、もしくは開けると痛いときは、歯科、歯科口腔外科を受診するといいでしょう。
3.お口が開かないときの治療法
3-1.薬物療法
3-1-1.消炎鎮痛薬
消炎鎮痛薬とは、痛み止めのことです。顎関節や咀嚼筋の痛みによってお口が開けにくくなっている場合は、まず痛み止めを使って痛みを和らげることから開始します。
この時に使われるのが、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)とよばれる薬です。
痛みをとると同時に、炎症を緩和する効果もあります。
3-1-2.筋弛緩剤
咀嚼筋の痛みが原因で、お口が開けにくくなっている場合は、消炎鎮痛薬を使って咀嚼筋の痛みを取り除くと同時に、筋弛緩剤を使って咀嚼筋の緊張を緩和します。
3-1-3.破傷風治療
破傷風による開口障害に対しては、破傷風の治療を行ないます。
できるだけ早い段階で破傷風菌の毒素に対する抗血清とペニシリン系の抗菌薬の大量投与をします。
呼吸困難を認めた場合は、気管切開をして呼吸管理をします。特に呼吸管理は破傷風患者の生命予後を大きく左右しますので重要です。
3-2.スプリント療法
スプリントとは、いわゆるマウスピースのことです。バイトプレート、咬合挙上床などいろいろな呼び方がなされています。なお、スプリント(splint)とは、『副え木』『当て木』という意味です。整形外科領域でのギブスと同じ意味です。
全ての歯、もしくは一部の歯にプラスチック材料でつくられた覆いを装着し、歯の噛み合わせの不均衡や、咀嚼筋の強ばりの緩和、顎関節を構成する下顎骨の先端部分の位置調整などを図ります。
スプリント療法の有効度は70〜90%といわれており、効果は高いです。
3-3.マニュピレーションと開閉口運動療法
マニュピレーションや開口訓練は、運動療法の一種です。
両者の違いは、マニュピレーションは歯科医師が行ない、開口障害は患者さんが行なう点です。
マニュピレーションは、歯科医師の手指を使って、顎関節の可動域を改善させる運動療法です。顎関節の動きを良くする以外に、痛みの緩和や筋肉や靭帯を伸展させる効果があります。
開閉口運動療法は、マニュピレーションの効果を持続させる目的で、自宅で行なってもらう運動療法です。顎関節の動きを良くしたり、開閉口時の引っかかりを解消させる効果があります。
3-4.関節腔洗浄療法
顎関節内部にある関節腔を生理食塩水などを用いて洗浄し、炎症性物質や発痛物質を洗い流し、開口時の引っかかりを取り除きます。
術式は、まず局所麻酔をした上で、関節腔に2本注射針を刺入します。一方には生理食塩水などの点滴ボトルを繋げます。一方の注射針は排水溝の役割を担います。そして20〜60分程度かけてゆっくり滴下し、関節腔を洗浄します。
3-5.パンピングマニピュレーション
関節腔内に局所麻酔薬、または生理食塩水を満たした注射器を刺入し、1〜2[ml]程度の注入と回収を10回くらい繰返し、関節腔を拡張させます。そして、拡張後に数回マニュピレーションを行い、お口を開けられるようにする方法です。
3-6.低周波通電療法
低周波通電療法は、マイオモニター通電療法ともよばれる方法で、咀嚼筋のマッサージ効果があります。
方法は、専用の器械を装着し、咀嚼筋に電流を流します。電流の作用で咀嚼筋が一時的に収縮し、マッサージ効果を発現します。
マッサージ効果により、咀嚼筋の血流を改善させ、筋内部にたまっている老廃物を排出させ、筋の緊張を緩和します。
4.予防法
開口障害には、日頃のくせが大きく影響しておこるものがあります。くせを治せば、くせによって起こる開口障害を予防することができます。
4-1.歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりは、顎関節症を引き起こす悪習癖の代表です。
特に意識することはないのですが、実は上下顎の歯は、通常当たってはおらず、数[mm]の隙間が空いています。これを安静時空隙といいます。
食事以外の時間は、歯と歯が当たっていないのが正常な状態なのです。
ところが、歯ぎしりや食いしばりのくせがあると、歯と歯を当てているわけですから、閉口筋を必要以上に使っていることになります。また、顎関節においても下顎骨が側頭骨を突き上げる方向に圧迫しますので、炎症をおこす原因になります。
こうして歯ぎしりや食いしばりが、開口障害を引き起こします。
歯ぎしりや食いしばりをするくせがあるのなら、歯科医院で相談することをおすすめします。
・歯ぎしりについては、以下の記事で詳しく説明しています。
歯ぎしりがもたらす体に悪い10のことと自宅での治し方
・食いしばりについては、以下の記事で詳しく説明しています。
今日からできる!食いしばりを治す7つの方法
4-2.ほおづえ
ほおづえも、開口障害を引き起こすくせのひとつです。
ほおづえをつくと、下顎骨に横方向にむかう力がかかります。つまり、下顎骨が横にずれてしまうのです。
顎関節や咀嚼筋には、横方向へかかる力によってずれが生じます。それが炎症を引き起こし、開口障害をおこすのです。ほおづえをつくくせがあるなら、やめるようにしましょう。
4-3.片側咬み
食事の時に、片側だけで噛むくせがあると、その側にばかり負荷がかかってしまいます。
両側で均等に噛むようにしないと、負荷がかかった側に炎症が起こるために、それが原因で開口障害を引き起こすことがあります。
4-4.幼少児からの食生活
下顎骨は、小さい頃から硬いものをしっかり噛むこと刺激によって、成長が促されます。
小さい頃から軟らかいものばかりを食べていると、下顎骨の成長発育が悪くなり、下顎骨が小さくなってしまいます。
顎関節にとっても、一方の骨である下顎骨だけが小さいと、バランスが悪くなってしまいます。そのために、顎関節にかかってくる負荷に対して弱くなります。
小さい頃からの食生活も、開口障害に繋がる要因のひとつとされるのはそのためです。軟らかいものばかりでなく、小さい頃はなるべく硬いものをしっかりと何度もかんで食べるようにしましょう。
まとめ
お口が開けにくい、お口が開かなくなることを開口障害といいます。
開口障害を起こすと、食事や会話などの日常生活に悪影響が生じます。開口障害が起こる原因はひとつだけではありません。いろいろな原因があり、それらが複合して生じていることも珍しくありません。
そこで、開口障害が発現したときは、開口障害の原因に応じた治療が必要となります。
適切な診断と治療を受けるためには、歯科口腔外科を受診することをお勧めします。
また、くせによって開口障害がおこることもあり、このような開口障害であれば、癖を治すことで予防することが出来ます。
もし、歯ぎしりや食いしばりなどのくせがあるのなら、治しておいた方がいいでしょう。
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