歯を失い、インプラント治療を選択する際に、外科手術を伴うため、自分にとって最適な歯科医院で施術を受けたいものです。
近頃インプラントが一般的になってきましたが、もちろんすべての歯科医院で同水準のインプラント治療が提供される訳ではありません。
そこで、インプラントを施術する前に、少しでも安心して臨めるように、インプラント治療を行うにあたって、歯科医師に必要な知識と技術、歯科医院にあると良い設備などを詳しく解説していきます。
1.インプラントについて
1-1.インプラントってなに?
インプラントとは、歯を失った際に、その場所に人工の歯根を埋めて、その上に人工の歯をつける治療法です。
いわゆる差し歯のようなものですが、一般的な差し歯は、本来の歯根にさして被せるのに対し、インプラントは人工の歯根に被せているところが異なります。
現在、我が国を始め世界的に主流になっているインプラントは、スウェーデンのブローネマルクという口腔外科医が開発した方式で、インプラントと骨が結合することから、オッセオインテグレーション・インプラントとよばれています。
1-2.インプラントの素材
この方式のインプラントは、形はスクリュー型、素材は純チタンもしくはチタニウム合金で出来ています。メーカーによっては、その表面にハイドロキシアパタイトなどをコーティングしたりして特色を出しています。
チタンは、極めて身体に優しい素材です。そのため、身体が異物として認識することはほとんどありません。しかも、アレルギーが起こることもほとんどない上に、骨と結合するという特性を持っています。
1-3.インプラントの構造
インプラントは、いくつかのパーツによって構成されています。いろいろなメーカーが特色のある製品を開発していますが、基本的な構造は共通です。
1-3-1.フィクスチャー
インプラントの歯根部分のことです。純チタンやチタニウム合金で出来ており、一旦骨の中に埋めてしまうと、外からは全く見えません。
1-3-2.アパットメント
フィクスチャーと上部構造を繋げているところのことです。インプラントの支柱ともいえる部分です。
1-3-3.上部構造
インプラントの人工歯部のことです。上部構造はいろいろな種類があります。全てセラミックでつくる場合もありますし、金属を併用するときもあります。金属を併用しても、金属が上部構造の表面にでてくる部分の面積はほとんどありませんので、目立つことはありません。
1-4.インプラントの仕組み
まず、顎の骨にインプラントを入れるための穴を開けます。そして、インプラントを顎に埋めます。
このとき、穴の直径はわずかにインプラントより小さいので、ねじを回す要領で、インプラントのフィクスチャーをねじ込みます。そのために、インプラントのフィクスチャーはスクリュー型になっています。
顎の骨に埋め込まれたインプラントは、その後しばらく養生する期間を設けられます。その間に、新しい骨がインプラントの周囲に出来てきて、チタンで出来たインプラント表面の細かい部分まで覆っていきます。
つまり、スクリュータイプのインプラントフィクスチャーのねじ山の部分と溝の部分に新しく出来た骨が入り込むことで、インプラントが固定される仕組みになっているのです。
2.インプラントをするときに必要な知識と技術とは?
2-1.知識
2-1-1.解剖学的知識
歯を失ったところに顎の骨に埋め込むのがインプラントです。歯や顎の骨だけ知っていればいいということはありません。その周囲組織に関する解剖学的知識も欠かせません。
下顎であれば、骨の中には下顎管とよばれる顎先の感覚の神経や動脈の走っているトンネルがあります。また、顎の後ろの方には顔面動脈という太い動脈がありますし、顎の内側には舌神経という舌の感覚を司る神経が走っています。
上顎であれば、上顎洞という鼻の横、目の下に広がる空洞との位置関係を理解しておかなければなりません。これは、あくまでも一例ですが、解剖学的知識を十分に理解しておかなければ、思わぬトラブルの原因となりかねません。
2-1-2.薬理学的知識
何も病気がなく、薬物治療を受けていない様な場合は良いのですが、何らかの病気を抱えていて、薬の投与を受けていることがあります。
薬の種類によっては、インプラント手術に何らかの影響がある場合もあります。さらに、インプラント手術後には、抗菌薬や痛み止めなどの薬を処方する必要があります。
そのとき、他科で処方されている治療薬との相互作用の有無などの知識が必要となってきます。病気によっては、処方するという行為そのものが制限される薬もありますので、そうしたことからも薬に関する知識は必要です。
・インプラントの術後のリスクについては、以下の記事で詳しく説明しています。
インプラントがもし失敗するとどうなるの?その後の治療法
2-1-3.理工学的知識
インプラントには、いろいろな素材が使われています。フィクスチャーには純チタンやチタニウム合金、アパットメントにはチタニウム合金やセラミックス、上部構造にはセラミックスや金銀パラジウム合金、金合金などです。
こうした素材の特性を理解しておくことも大切です。
2-1-4.インプラントの知識
当然の話ですが、インプラントの構造や理論が理解出来ていないことには、インプラント治療自体行なうべきではないでしょう。
2-1-5.感染制御の知識
感染制御とは、細菌やウィルス感染を防止することです。
設備面では滅菌や消毒、患者側では、術後の細菌感染を防ぐための抗菌剤の予防投与が含まれます。滅菌すべき器材、消毒の対象とすべき器材、洗浄だけで十分な器材、そして、そのための方法について、十分に理解しておく必要があります。
2-2.技術
2-2-1.口腔外科の技術
インプラントを行なうためには、口腔外科の知識と技術が欠かせません。
歯茎の切開や剥離、顎の骨に穴をあける、縫合して閉鎖するといったインプラントの基本的な術式は、口腔外科における技術とほとんど同じです。
口腔外科を志すものには研修医の時に言われる台詞があります。「埋伏抜歯(親知らずのばっしのことです。)には、口腔外科で必要とされる技術のすべてが含まれている。埋伏抜歯が出来ないことには、口腔外科は出来ない。」という言葉です。
インプラント手術も同じです。埋伏抜歯が出来ないようではインプラント手術もおぼつかないでしょう。
2-2-2.補綴科の技術
インプラント手術を無事終えて、インプラントが骨と結合した後には、上部構造とよばれる人工歯をつける段階が待っています。
人工歯が適当であれば、しっかり噛めないばかりか、インプラントそのものがダメになってしまうこともあります。
補綴科とは、被せものや差し歯、入れ歯をつくる歯科の診療科です。補綴科の知識や技術がなければ、インプラントに適切な上部構造(人工歯)を装着して、きちんと機能させることは出来ません。
2-2-3.歯周病科の技術
インプラント治療が無事終わり、噛めるようになった後、そのインプラントを長期にわたって維持するために必要なのが、歯周病科の知識と技術です。
お口の中には、歯周病菌がたくさんいます。歯周病を適切に管理出来ていないと、インプラントの歯周病菌が感染師、インプラント周囲炎とよばれる病気を引き起こすことがあります。
インプラント周囲炎になると、インプラントがぐらついてくるだけでなく、ひどい状態に陥るとインプラント自体が抜け落ちてしまうこともあります。つまり、インプラントを長持ちさせるためには、歯周病のコントロールが大切になってくるのです。
・インプラント周囲炎については、以下の記事で詳しく説明しています。
インプラントがグラグラ!?周囲炎を防ぐ大切な8つのこと
3.インプラントをするときにあると、安心な設備とは?
3-1.CT
3-1-1.歯科で一般的なレントゲン写真の限界
歯科医院で通常撮影されるレントゲン写真は、パノラマX線写真とよばれるものです。
1枚の写真で上顎・下顎のすべての全ての歯と、上下顎の骨の状態がわかりますので、非常に便利です。
しかし、立体である歯や骨を、1枚の写真に写しますので、奥行きがわからないという欠点があります。さらに、歯の向きも前後方向はわかりますが、それに直交する向き(これを頬舌方向といいます。)の歯の傾斜はわかりません。
3-1-2.CTとは?
CTとは、Computed Tomographyの略で、正式にはコンピュータ断層撮影といいます。
放射線を用いて物体をスキャンし、コンピュータによる画像処理を経て、物体の内部の状況を観察するための機器のことをいいます。
もともとは、脳腫瘍や頭部外傷の診断から使用が開始されましたが、今では全身のさまざまな病気の診断に用いられるようになり、現代の医療には欠かせない存在となっています。
インプラント手術の際にも、顎の骨の状態を把握するためにとても有用な機器となっています。
出典:株式会社モリタ
3-1-3.CTの利点
CTを撮影すれば、インプラントを入れる部分を含めた、残りの歯の位置関係、骨の状態などを立体的に把握することができます。
特に、高齢者の場合、パノラマX線写真では骨がしっかりとしているような所見が写されていても、厚みが薄くなっていることもあります。
また、下顎の中には下顎管とよばれる神経と動脈が走っているトンネルがあります。このトンネルを傷つけますと、下顎の先や下唇の感覚にしびれが生じたり、大出血を起こすリスクが生じます。
鼻の横、目の下には上顎洞とよばれる空洞があります。上顎のインプラント治療をするとき、上顎の骨が薄くなっていると、この上顎洞の底の骨も薄くなっているということを意味します。
厚みをきちんと把握せずにインプラント手術を行なうと稀に薄くなっている骨を突き抜けてしまうことがあります。もしそうなりますと、上顎洞炎という鼻の炎症や、鼻出血の原因となってきます。
CTを撮影すれば、インプラント手術部位の骨の状態を立体的に把握することが出来ます。インプラント手術に際し、術前にCTを撮影して骨の状態を確認し把握していれば、その安全性を高めることが可能になります。
3-1-4.CTによるインプラントのシミュレーション
CTはいろいろな会社が製品を販売していますが、なかにはインプラントを入れた場合のシミュレーションが可能な製品もあります。
インプラントの大きさだけでなく位置、向き、周囲の歯や骨との関係を術前にシミュレートできれば、術後の状態を理解しやすい利点があります。
3-2.サージカルステント
サージカルステントとは、レジンとよばれるプラスチックで出来たマウスピースのようなもののことです。サージカルステントは、インプラントを埋める手術をする際に用いられます。
今までは、レントゲン写真やCT写真からの情報を元に、術者の感覚でインプラントを埋める手術をしていました。しかし、術者の感覚で行ないますので、ちょっとした角度や深さ、位置の違いで、インプラントの方向や位置がずれてしまうことがありました。そこで、サージカルステントというものが考案されました。
術前にサージカルステントを用いてCTを撮影し、インプラントを入れる場所、方向、深さをシミュレーションし、適切な位置を定めます。
これを元にしてインプラント手術を行なうと、今まで術者の感覚と経験に頼るところが大きかったインプラント手術が、感覚と経験というあいまいなものから脱却することができるようになります。そのため、手術の正確性が高まり、同時に安全性も向上させることが出来るようになります。
3-3.モニター
モニターとは、血圧、脈拍、血液中の酸素濃度、心電図などを監視する装置のことです。インプラント手術を行なう時、局所麻酔の際の注射の痛み、ドリルを入れてインプラントを入れるための穴をあけるときの振動、もちろん、インプラント手術を受けることによる心理的な影響もあります。このように、いろいろなストレスがかかります。ストレスは、血圧や脈拍の変化などさまざまな影響を人間の身体にもたらします。
インプラントを埋め込むことは、顎の骨の手術をすることと同じです。手術中の全身状態を把握することは、手術の安全性を担保するためにも大切なことです。
3-4.AED
AEDとは、Automated External Defibrillatorの略で、自動体外式除細動器のことです。
最近では病院以外に駅やショッピングモールなど、街の至る所に設置されています。インプラント手術を受けている際に、状態が急変する可能性も考えられます。
その場合、救急車を要請し、到着するまでの十数分の間の蘇生処置がとても重要になります。AEDはあらゆる心臓疾患に使えるわけではありませんが、自動的に診断作動してくれるAEDがあれば非常に便利です。
3-5.ICLS
3-5-1.ICLSってなに?
ICLSとは、Immediate Cardiac Life Supportの略で、医療従事者のための救急蘇生をトレーニングするコースです。
緊急性の高い状態のうち、特に突然に起きた心臓停止に対して行なう最初の10分間の対応について学びます。講義はほとんどなく、実技実習が中心となっているのが特徴です。
受講者は、医師・看護師・臨床検査技師・救急救命士など、医療職なら誰でも対象となり、約一日かけて、各種心停止時のシミュレーション実習を繰り返し、蘇生に必要な技術を身につけます。
3-5-2.ICLSの利点
ICLSでは、座学はほとんどありません。昼食の時間も惜しみ、ほぼ1日中が実技トレーニングとなっています。ですから、実践に即したさまざまな状態をシミュレーションで体験することが出来るので非常に有意義です。1日受ければ、一時救命処置、AEDの正しい使い方、心臓停止のときの心電図の波形の読み取り、電気ショックの正しいかけかた、気道管理と呼吸管理、状況に応じた薬剤の使い方など、緊急時の対応を身につけることが出来ます。
安全面に考慮してAEDなどの設備だけ揃えいても、いざという時に綱えなければ意味がありません。
インプラント手術に直接利用する技術ではありませんが、手術の際の緊急事態に適切に対処する技術を身につけているということは、安全性を確保する上でも欠かせません。
まとめ
インプラントは、歯が失われた時にその部分を補うための優れた治療法です。現在では、チタンを使い、骨と結合させる方式のインプラントが主流になっています。
インプラントを成功させるためには、通常の歯科の知識だけでなく、解剖学から口腔外科学までさまざまな知識が必要です。そして、インプラント手術は外科手術である以上、安全性を追い求めることもとても大切なことです。
インプラントの技術だけでなく、安全面も追求している歯科医院で受けられることをお勧めします。
補綴(入れ歯/ブリッジ/かぶせ物)の専門歯科医師との無料相談実施中
歯が抜けて長く悩んでいたり、歯が抜けてしまいそうで専門の歯科医師へ相談してみたいけど、どこへ相談してよいかわからない方など、まずはハイライフグループへ無料で相談されてみませんか?
ハイライフでは、補綴(入れ歯/ブリッジ/かぶせ物)専門歯科医師が全国で無料相談を実施しています。
無料初診相談をご希望の方は、以下の「お申し込みページ」もしくはお電話にてお申込みください。※予約制
入れ歯/ブリッジ/かぶせ物など歯が抜けた(抜けそう)で、お困りの方はお気軽にご相談ください。
ハイライフグループは、国内最大の入れ歯専門歯科グループです。専門の歯科医師があなたに合った治療方法をご提案いたします。